そこは彼となし

日記のようなもの

習文

 

 

例えば、埃の匂いがかすかに残るような廃墟と化した場所で流れる音は何かということだ。それは鳥の声である。

 

空襲の荒地となった土地の図書館には、襲撃と火災を免れた本棚が3つ残っていた。人々はその本棚で怯えている本たちを丁寧に手に取って、瓦礫の上に座って読み始めた。人々は飢えていた。何に飢えていたかというと、活字に飢えていた。

 

 

子どもはよく見ているしよく理解をしている。例えばお行儀をよくすべき場所で騒ぎ立てはじめる子どもがその母親の顔を伺っている時の目をあなたは見たことがあるか。子どもは自分を見てもらうためにはどうすればよいのかということを知っている。それがほんとうに見てもらえるか否かは知らないままに。

 

 

「僕はまずここで見ることから学んでゆくつもりだ。なんのせいかは知らぬが、すべてのものが僕の心の底に深く沈んでゆく。ふだんそこが行詰りになるところで決して止らぬのだ。僕には僕の知らない奥底がある。すべてのものが、いまその知らない奥底へ流れ落ちてゆく。そこでどんなことが起こるかは、僕にはちっともわからない」