そこは彼となし

日記のようなもの

書き留めねばならないと、強迫めいた感情で記しておこう。
父がなくなった。

寝ていると、母から電話がかかってきた。疲れていて、何度か電話に出なかったようだが、出た。
出ると父がなくなったと言う。
不思議だった。
いまも不思議だが。

母は自分を責めていた。とてもネガティブな思考の人なので、自分は何もできなかったと責めていた。わたしはそんなことはない、と強く、言った。
離婚をしたのは父をそれ以上縛り付けたくなかったからだと言った。その選択は決して間違っていないだろう。
なぜなら、ふたりともお互いのことが大切であったからだ。私がそう感じた。間違いない。
決して間違っていないはずだ。改善すべきところは多々あったかもしれないが決して、間違ってはいない。

おそらく最後、あの家に父をいさせたのは私のせいだろうと思う。大学受験を望まなければ、父にあのような生活をさせることはなかった。

私が父の家も、母の家も出て、ひとりでこちらへ来て、最後の電話は「もう大丈夫そうか」であった。「もう大丈夫だ」と答えた。
父は父であった。それだけで十分であった。他はもう何もなくていい。十分だった。

弟がなんで父の日なんかなあ、と呟いた。父はほとんど孤独の人であったから、自分の存在を留めて欲しかったのではと勝手に思っている。奥手な父らしい。


安心してしまったのかな、と思った。父は少し死を待っているような雰囲気を纏っていたし、実際、残りの楽しみは死ぬことだけだと言っていた。
どんなふうなんかな、と。自分だけにしかわからないから、と。

ほんとうにたしかに自分だけにしかわからないね、私はまだ知らないもの。
どんな感じだったのだろう。父が興味を持つのだから、まあ、面白いと言っていいのかわからないが、最後は己の最後を知ることができたのだろうか。それとも最後とも言わないものだったのだろうか、父だけが知っている。